マルケの涙とイタリア一おいしい(?!)パスタ

 先週、マルケ州のマチェラータ県のモンテ・サン・ジュストという村にあるパスタ工房を訪れました。

La pasta di Aldoという名のまだ出来て20年も経っていない工房ですが、彼らが作る卵麺はイタリア一番の誉れも高く、グルメをうならせています。

その工房見学の様子はこちらをご覧ください。

 

 卵麺の製麺工場は、実は多くがマルケ州に集中しています。乾麺がグラニャーノをはじめとする南イタリアに集中しているのと対照的ですよね。やはり卵麺の伝統は中北部イタリア。

 もともとマルケ州の人々は働き者で手工業に長けた特徴を持ち、ケミカルシューズやかばん、家庭製品の中小工場がひしめいています。当然、おいしい製麺工場がいくつもあるのは不思議なことではありません。

 

工房の外に広がる景色。丘の向こうには2000メートル級のシビリーニ山系が広がり、秋から春まで雪の頂が見えます。
工房の外に広がる景色。丘の向こうには2000メートル級のシビリーニ山系が広がり、秋から春まで雪の頂が見えます。

パスタ工房のご主人ルイジさんが、工房見学の後、食事に招待してくれました。同じ村の旧市街の入り口にトラットリアはありました。プーリア州のサレント地方出身のご家族が40年前からやっている(レストランとしての歴史は100年前にさかのぼるそう)、プーリアとマルケがほどよくミックスされたメニューだそう。

一歩中に入ると、古い写真がたくさん飾ってあり、暖炉もあって温かみのある雰囲気です。

まずやってきたのが、アルドのパスタ2種盛りです。

手前がファッロのパスタで、奥がラザーニャです。

 

ファッロとはスペルト小麦で、それを挽いたものを練りこみ、細麺にしています。ちょっとざらついていて、歯ごたえが適度にあり、バッサリと噛み切れる食感がお気に入り。ねっとり絡んだトマトと夏野菜のソースが、最高に美味です。この野菜ソースにはきっちりと唐辛子が利いているから、一口食べるごとにほどよい刺激があり、次の一口を誘います。

「おいしい~!!」

ラザーニャはマルケ州のスペシャリタの一つだと、私は勝手に思ってます。全イタリアでもちろん食べられるのですが、田舎のトラットリアへ行くとラザニア率が高いのが断然マルケ。ビンチスグラッシという鳥レバー入りのラザーニャが州の伝統料理になっとります。

今日のラザニアは、野菜のベシャメルがたっぷりと入った、やさしい味。表面がこんがりと焦げていて、それが食欲をそそります。野菜の恵みをパスタで包んだような逸品です。

 

私たちが夢中になって食べていると、ルイジさんは「気に入ってくれた?」とうれしそうに問いかけました。もちろん、と声を大にして答えます。

ワインは地元の農家から買い付けてきた赤を頂きました。「農家のワイン」というからには、カラフに入っているのかと思いきや、あら、かわいい。小さな1/4ボトルに入っているではありませんか。

 

ラクリマ・ディ・モーロ・ダルバ Lacrima di Morro d'Alba をステンレスタンクで醸造したシンプルなワイン。でもこのワインが、香りよくて病みつきになります。

香りは甘く野バラのような香りをまとい、甘いワインかしら?と思わせますが、口に入れるとむしろ鉄っぽく酸味もあります。そのコントラストが面白い。

農家のワインらしく、推定アルコール13%ほどですが、グイグイ飲めちゃう軽さがあります。

これは絶品。

 

聞けばラクリマというこの土着品種、さかのぼること12世紀だそう。フェデリコⅡの祖父のバルバ・ロッサがアンコナで滞在していた際にはすでにあり、Morro dalbaの壁付近で野営している時に飲まれて、一気に世に広まったそう。

さてセコンドには、ブッラータとクラテッロが登場しました。

 

ブッラータはプーリア州のバーリ県アンドレアという町で1900年代初頭に開発されたモッツァレラ生地に、ストラッチャテッラ(生クリームとモッツァレッラの切れ端)が詰まったチーズ。フレッシュだけど食べ始めると濃厚さにうっとりします。

 

 

クラテッロはパルマ近郊のジベッロ村などで、お尻のやわらかい肉だけを使って熟成される極上ハム。生ハムのなかでもその芳醇さは別格です。

 

 

クラテッロにブッラータを巻いて食べる…なんてことが許されちゃう贅沢な食べ方です。これもこのトラットリアがグルメを唸らせる品揃えをモットーとしているからなんですよね。

一方、こちらはマルケ州マチェラータ周辺の名物であるガラティーナでございます。

一度も食べたことがない…と同行者が言っていたので、ルイジがしたり顔で「これを食べなきゃ損するよ」と満腹にも関わらず勧めてくれました。

 

鶏肉を開いて、中に豚肉や野菜、ゆで卵、鶏肉のひき肉やパルミジャーノを入れて、茹で上げたもの。重石をして、形を平たくするのが大事なんだそう。

 

いかにも放し飼いのおいしい鶏がとれるこの土地ならではの料理ですよね。

ゆで卵が入るのが、目に鮮やかで、ご馳走感が増しますよねぇ。

 

やさしい味わい。でも口に野菜の歯ざわりや黄身のネッチリした食感や豚のうまみが融合して、お祭り状態。飾らない田舎料理です。

 

付け合せのインサラタ・ルッサ(ロシア風ではなく、素材に赤が多いからロッサが訛ってルッサになったとルイジ談)。手作りマヨネーズでホツホツとした舌触りが美味。

 

食後のドルチェですが、もうお腹一杯と言っても容赦してくれるようなイタリア人ではありませんよ。「じゃあ、一口だけ切り分けてもらったらいいよ」とルイジさんの勧めどおりにチーズケーキを頼みましたが、もう!一口じゃぁ、ないじゃない。

このやり取りって、イタリアのお約束ですよね。

新鮮なリコッタチーズをふんだんに使ったチーズケーキ。濃厚なのにクリームチーズではないからさっぱりしています。ケーキの端のよく焼けたところが香ばしくて、アクセント。このブルーベリーなどの森の果実ソースが、たまらなくマッチしていました。

 

地元の美味なるものは、地元の人が知っている。

アルドのパスタ職人ルイジさん自身が、非常にグルメだというではありませんか。

美食家の周りには美食家が集まっていくものなんですよね。マルケ州の手作り卵麺を実地研修しながら、そう思いました。

 

                              粉川妙

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